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  • 2024.01.13 Saturday
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桐生親子の事件録−30

 それから数日後に晃と旬の親子鑑定の結果がでてほぼ100%親子だとわかった。
「親子……。旬は俺と万里子の血を分けた子供……。」 
 自分を見捨てた万里子の映し身が今、目の前にいるという気持ちが改めて湧いてきた。
「残念だったな。ふふふ。」
 旬はご飯に卵をかけてスプーンで食べながら笑った。
「ああ、残念だった…。」
 沈んだ声で晃は答え、その晃を見てふっふっふっと旬はもう一度笑った。
 その後は二人は静かに夕飯を食べた。
 晃はふと箸を持ったまま手を止めて旬の顔をじっと魅入った。
 −万里子に瓜二つだ。俺には似てない。万里子にそっくり…。
 いま晃の眼に旬の顔が長い黒髪の小さな万里子に見えている。
 まったく万里子のミニチュア人形に。
「なんだよ、気持ち悪いな。」
 ミニチュア万里子が睨んだのでハッとして晃は本心を隠そうと話題をすり替えた。
「…おまえ、この間買った本読んでるのか?」
 チビ万里子はふっと鼻で笑って言う。
「ああ、すごく面白いよ。まだまだわからない事だらけだけどな。」
 旬にせがまれて晃は3分でわかる遺伝子というのを買ってきた。
 こいつはどんどん頭が良くなるな…晃は空恐ろしい気がした。
「晃も万里子も馬鹿だから、たぶん俺は突然変異の天才なんだな。」
 今自分が考えていた事を見抜くかのような事を旬が悪意ある笑顔を向けて言うので
 晃はほとほと疲れてしまった。

 万里子は聞いたことのないヨーロッパの古い小王国に来てそこで栗毛男の貴族に毎日誘われ
 あちこち連れ回されていた。
 黒髪の男の自殺は万里子の心を悲嘆にくれさせたが、栗毛男はここぞとばかりに万里子に
 愛と思いやりと誠実さを見せつけようと努力した。
 今日もお洒落なスーツ姿で万里子が滞在しているホテルに迎えに来て紳士らしくエスコートしている。
 万里子の差し出した手にキスをして栗毛男は言う。
「どうしたら私の妻になってくれるだろう?」
「あなたが誠実で穏やかであるならね……。」
「マリコ、あなたは可愛い顔で私をじらす。こんなに恋が苦しいなんて!愛しているよ!」
 この栗毛男はどことなく晃に似ている。顔は全然違うのだが陽気な所が。
 無邪気な晃の笑顔が甦って、万里子は胸がきゅーっとした。
 あんなに怖い思いをしたのに…馬鹿な万里子…。
 今日は栗毛男がずっと自慢していた王国の大パーティーだ。
 古い城に招かれて昔ながらの王侯貴族のパーティーが復元されるとあって栗毛男は万里子に
 素晴らしいドレスと宝飾をプレゼントした。
 それを見事に着こなした万里子は光輝いていた!
「美しい!素晴らしい!最高の奥さんになる!」
 栗毛男がにっこり笑ってそう言うので万里子はまた晃を思い出してしまった。
 俺の奥さん!俺の奥さん!俺の奥さん!万里子は俺のモノ!
 クルクルクルクル万里子の周りをじゃれついて離れなかった子犬の様なハンサム。
 夜になって古城の周りにたくさんの人々が集まり花火も上がって空を美しく飾った。
 ドーンドーンと夜空に美しい火の華が咲き誇るのを万里子はうっとり見とれた。
「きれい…。」
「マリコの方が遥かに綺麗だよ。」
 古城と花火を背景に立つ美し過ぎる万里子はすでに人々の注目の的だった。
「なんて可愛らしい女性なんだ。」
「どうか、この老いぼれに人生最後の夢を見せて下さい。」
 古城内の大広間はタイムスリップしたかのような古くて豪華な調度品や美しい花々が飾られ
 ここでもやはり万里子にうじゃうじゃ群がる男がいっぱいだった。
 紳士達は真っ赤な顔で万里子にうっとり見惚れ、淑女達は万里子を嫉妬で厳しく睨みつけた。
「ああ、まったく、私のマリコに近寄らんでくれ!」
 そこに現在の王と王妃と唯一の皇位継承者の王子とその妻が現れた。
 昔の古い仕来たり通り貴族達は一斉に挨拶をした。
 万里子も他の人たちに習って挨拶をしたが顔をあげるとふと、王子と目が合った。
 王子は何かに驚いているような、それとも夢を見ているような表情で万里子を見ていた。





万里子とチビ万里子・旬に悩まされる晃に愛のワンポチを

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